9月 172010
 

青山ブックセンターのスタッフによる写真集紹介のコーナーです。第1回目は石渡朋さんによるジャン=リュック・ミレーヌ『JEAN – LUC MYLANE』です。

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ジャン=リュック・ミレーヌ(Jean=Luc Mylayne)は、1946年生まれのフランス在住の写真家です。 今回紹介する彼の写真集『JEAN – LUC MYLANE』、 可愛らしい鳥と、ところどころがソフトフォーカスになっている写真達に、鳥への愛が溢れた写真集だなという印象を抱きました。

ところがミレーヌについて調べているうちに、彼の表現したいことはそんなに生易しいものではないことがわかってきました。もちろん彼は鳥達を愛しているとは思いますが、彼が表現したいことは大きく言うと「自然と人間の共存」、そして「時間と場所の特別性」です。 その壮大なテーマはこれまでも数々のアーティスト達が取り組んでいて、とても興味深いものです。 ただ、多くの人が挑戦するテーマなだけに、世に現れるイメージはややありきたりで、中身はあるのに視覚的に退屈してしまったりします。

 

彼は一つのイメージを得るためには努力を惜しみません。 まずはテーマを探すためにヨーロッパやアメリカ中を最大の理解者である妻と旅をして、とりかかるプロジェクトを見つけると家や車、家財道具一式を売り払ってしまいます。 そして写真を撮るための機材を購入し、望遠レンズを使うのが嫌だからといって独自のレンズの開発までします。 ロケーションを見つけるのにも、見つけてから機材をセッティングするのにも気の遠くなるような時間をかけます。

写真は押せば写るものなのに、映画や絵画さながらの「絵作り」「セットアップ」をするミレーヌ。 それらの努力がたった一瞬のシャッターを押す行為で完結してしまっていいのか、なんだか心配にまでなってしまいますが、そこにこそ彼の哲学が宿っているようにも感じました。 ただの鳥の写真として見るのもいいですが、そこにこめられた努力や意味を知るともっと作品に興味が湧いてきます。 しかし肝心の作品が面白くなければ、どんなに内容を説明されても興ざめしてしまうのも事実。 ミレーヌは30年という月日をかけて、その両立を実現しています。

 

 

 Posted by at 9:37 PM
9月 172010
 


「世界の写真サイトトレッキング」コーナーでは今日の写真に関するサイトやインターネット上で見れる動画などを、海外のものを中心に紹介していきたいと思います。
第2回目はtinyvicesというサイトです。

だれのサイト?
アメリカ人の写真家 Tim Barber(ティム・バーバー)。

どんなサイト?
2005年に設立されたオンラインギャラリー。Tim Barberが選んだ写真家のポートフォリオや展覧会情報などを紹介しています。

もう少し詳しく
『現代写真論』の中でCharlotte Cotton(シャーロット・コットン)はこのサイトについて以下のように書いています。

このサイトは、現代写真にとってのハブ的な存在であり、バーバー自身の写真作品や彼が管理する新旧さまざまなアーティストたちの作品のほか、サイトのユーザーが提出した画像をも集めたポートフォリオになっている。ここではまた、(おもに)オンデマンド印刷の本を購入したり、ライブイベントや展覧会の情報を得たりすることができる。バーバーのプロジェクトは、公共施設やギャラリー以外での、現代写真の主要な伝達手段になった。インターネットの潜在能力に対するひとつの創造的回答といえる。これによって、ほかの写真家の作品を整理し、編集し、管理し、研究するといった、写真の艶やかな面の下に隠された、一写真家であるための要素が、写真のコミュニティのなかではっきりと見えるようになったのである。
シャーロット・コットン (2010) 『現代写真論』 大橋悦子・大木美智子訳 晶文社 pp.239-240.

Tim Barberは2010年2月に東京のギャラリーYuka Contemporaryで個展を行いました。ギャラリーのサイトに写真家について詳しい情報が載っています。

tinyvices series
アメリカのApertureという出版社から5冊、tinyvicesシリーズとして写真集になっています。

 Posted by at 9:33 PM
9月 132010
 

アートライター/キュレーターの中原紗代子さんに、ロンドンから写真に関するホットな情報をレポートしていただきます。Wolfgang Tillmansの展覧会レポート、後編です。

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続く各部屋は、印画紙を用いた抽象イメージや天体写真、既存の切り抜き写真などを卓上に並べたインスタレーションまで、2000年以降の作品を中心に構成。モノクロコピーで拡大された大型作品の前には、ジャンクフード/ポリティクス/天体&宇宙という、テーマに沿った写真を配した3つのテーブルが。次のスペースでは、さまざまな色に焼き付けた印画紙を並べた作品(この色味と配置を決定するだけに数カ月も試行錯誤したとか)が、鮮烈なイメージを放ちます。

こちらでも多彩な作品をシャッフルし、シリーズを見せるかのようで関係ない写真も入っている、といったハズシがちらほら。全体を通して、何かを言い切らず常に新たな可能性を暗示するような、風通しの良さが感じられます。

Wolfgang Tillmans Installation view Serpentine Gallery, London
(26 June – 19 September 2010) Photograph: Gautier de Blonde

どんな形であれ、ティルマンスの「今」(あるいはちょっとだけ先の今)という時代の空気感を察知する感覚は、逸脱していると思います。だからこそ、「2001年になっても、まだ90年代は終わっていなかった」みたいなコメントをさらっと、でも確信を持って言うのがサマになるのかな。そんな永遠の少年の提示する、壊れそうで切れそうに甘い世界観を堪能できるのは、夏じゃないような夏のうち。

Roy 2009 C-type print
40.6 x 30.5 cm Courtesy the artist and Maureen Paley, London

 

Wolfgang Tillmans / – 19 September 2010
Serpentine Gallery / Kensington Gardens, London W2 3XA
http://www.serpentinegallery.org/

 Posted by at 6:43 AM
9月 102010
 

アートライター/キュレーターの中原紗代子さんに、ロンドンから写真に関するホットな情報をレポートしていただきます。第1回目は現在開催中のWolfgang Tillmansの展覧会レポートです。

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短くて涼しいロンドンの夏。今年は特に冷夏で、ハイドパークにあるサーペンタイン・ギャラリー前に登場した、ジャン・ヌーベルによる真っ赤な夏のパヴィリオンが、グルーミーな空の下、何だかシュールに見えてしまう日も。

そんなサーペンタインで開催中なのが、ロンドン写真界のスター、ヴォルフギャング・ティルマンスの個展。ロンドンに移住してちょうど20年という節目の今年、イギリスでは2003年にターナー賞を受賞した時のテート・ブリテンでの展覧会以来となる、大規模なソロショーです。

Wolfgang Tillmans Installation view Serpentine Gallery, London
(26 June – 19 September 2010) Photograph: Gautier de Blonde

入ってすぐのスペースでは、高さ2メートル以上という初公開の大型インクジェット作品6点にグルッと囲まれます。スタートラインに立つ陸上選手や山と積み重なった卵ケース、あるいはコピー機の反射光など、何の脈絡もないけれど、それらが一体となって、またひとつの世界観を紡ぎ出すようなシーンの数々。でもよく見ると、端の方に小さなプリントなどがちょこちょこ壁に貼られていたりと、得意技ともいうべきハズシが入っています。

未完結でフレキシブル。サーペンタイン・ギャラリーのスーパーキュレーター、ハンス・ウルリッヒ・オブリストとのインタビューで、ティルマンスが「明白でレトリカルな表現は、僕がとても恐れているもの」(本展カタログより)と言うのは、まさにこのことかもしれません。

Heptathlon 2009 Inkjet print 208.5 x 138 cm
Courtesy the artist and Maureen Paley, London

(後半に続く)

Wolfgang Tillmans / – 19 September 2010
Serpentine Gallery / Kensington Gardens, London W2 3XA
http://www.serpentinegallery.org/

 Posted by at 6:46 AM
9月 012010
 

2010年7月27日(火)から9月26日(日)まで東京都写真美術館でオノデラ ユキ「写真の迷宮(ラビリンス)へ」が開催されています。

本展覧会では、オノデラさんの作品9シリーズ60点が展示されていますが、そのなかで「Roma-Roma」という作品を紹介したいと思います。

 

Romaといってもイタリアのローマではありません。オノデラさんは地図上でみつけたスペインとスウェーデンにあるローマという町を、ステレオカメラを使って撮影しました。左のレンズでスペインを、右のレンズでスウェーデンのローマを、モノクロフィルムで撮っています。

これでなぜ「Roma-Roma」というタイトルか分かりましたね。

この作品では、写真を撮るまでの行為に意味をおき、その地まで「移動」すること自体を最大の目的としているので、撮影する場所に関しては町の名前だけを選んだ、とのことです。

さらに、これらのモノクロプリントを「19世紀の土産写真」のように、オノデラさん自身が油絵具で丹念に彩色しています。会場でも注意深く見ないとカラー写真だと間違えてしまうほどです。

オノデラさんはこの作品で、19世紀後半に流行したステレオカメラを用いたり、撮影場所までの「移動」を目的とすることで、本来の「写真という行為」を追体験したのではないでしょうか。

本展にあわせて、2010年9月11日までZEIT-FOTO SALONでも展覧会が開催されています。